補助事業番号  2022M-195

補助事業名  2022年度 安全・安心・快適な自転車利用を促進するAIギアデバイスの研究 補助事業

補助事業者名  東京電機大学 未来科学部 ロボット・メカトロニクス学科 岩瀬研究室 岩瀬将美

 

1 研究の概要

本事業では,安全・安心で快適な自転車利用を実現し,交通事故の低減と健康増進を図ることで,モビリティのクリーンエネルギー化を通じた持続可能社会への貢献を目指す.そのための方策の一つとして自転車をサイバーフィジカルシステムに接続することが考えられる.自転車の利用状況をセンシングし,サイバー空間内における分析によって利用者の操舵能力や状況に応じたリスクを見積る.リスク分析に応じたアシストを自転車に与え,自転車に搭載したアクチュエータが利用者を補助する仕組みを構成する.このキー技術となるAIギアモジュールの実現を目的とする.

 必要な機能を兼ね添えたモジュールの研究開発が必要である.センシングと操舵アシストを兼ねることから,ハンドルステムとシャーシ前部のステアリングコラム間に配置されることが望ましい.一般自転車にも簡単な調整で後付けできるコンパクト形状で機能が一体化される必要がある.利用者による操舵力と電動アクチュエータの操舵力を遊星歯車機構などにより適切に合成する必要があることからAIギアと呼び,AIギアデバイスの研究開発を行う.

 

2 研究の目的と背景

  本事業では,AIギアというキーデバイスの研究開発を通じて,安全・安心で快適な自転車利用を実現し,交通事故の低減と健康増進を図ることで,モビリティのクリーンエネルギー化を通じた持続可能社会への貢献を目指す.

図2 プロトタイプ機による手放し旋回走行
(
基礎実験中)

 
社会背景として,温室効果ガス削減による持続可能な社会の形成が必要不可欠になっており,自動車は電力などクリーンエネルギーへの転換を余儀なくされている.エネルギー変換効率の高い電動化が進むことで,一度に大勢を運搬する必要がなくなり,今後,個人の用途や形態に合わせたPMVがモビリティの主役となるであろう.このような要請に合致する自転車は再び注目を集めている.自動車免許を返還した高齢者の移動手段としても利用が増えている.またシェアバイクといった新しい形での自転車利用が普及しつつある.一方,深刻な事故の増加や自転車盗難・セキュリティという問題が生じている.

社会問題解決の施策として以下が考えられる.まず,自転車使用状況を把握することで,利用者の操舵能力を把握し,状況に応じたリスクを見積る.リスクに応じ,自転車利用者の周囲感知能力と操舵能力をよく補助し,安全性と安心感を高める.自転車利用履歴から運動量を評価し,利用者に提示し健康増進プログラムと連動させる.シェアバイクの移動履歴から地域での人流を把握し,駐輪場の最適化など都市計画に反映させる.これら総合してSDGsに貢献する.

 これらを実現する基本構想は,自転車のサイバーフィジカルシステムの構築にある.現実空間での自転車利用状況をセンシングし,通信を介してサイバー空間に取り込む.デジタルツインによって利用者の環境認識や操舵能力を把握し,状況に応じたリスク見積を行う.これらの作業は機械学習をベースとするAIにより行われる.リスク見積に応じて,適切な環境認識・操舵アシストを決定し,再び通信を介して自転車にフィードバックする.この補助を自転車に搭載した電動アクチュエータにより実現する.

本事業で開発するAIギアは,自転車の利用状況把握やサイバー空間との連携,操舵アシストまでを可能にする新しいハブデバイスであり,新しい取組であるとともに福祉機器展開,健康増進,シェアバイク促進のキーデバイスとなりうるものである.

 

3 研究内容

(1) AIギアデバイスの機構設計に向けて予備・基礎実験

AIギアデバイス機構設計に向け,プロトタイプ機による予備実験を実施することで,以下の結果を得た.

 

(1) ハンドル軸と前輪軸を物理的に切断し,ステアバイワイヤ機構(ハンドル軸角度をセンサで計測し,コンピュータ制御によって前輪軸を操舵する仕組み)によっても自転車は通常の操舵が可能であり,実際に乗車することが可能であった.(図1)

 

(2)ステアバイワイヤ機構を搭載したプロトタイプ自転車において,車体傾斜角および傾斜角速度をセンサによって計測し,その傾斜角や傾斜角速度および走行速度に基づいて前輪操舵軸をコンピュータ制御する仕組みを搭載した.この時,ハンドル軸を利用者が操作した場合には,この操作量はコンピュータ制御に反映される仕組みである.この結果,利用者はハンドルを手放しした状態であっても,ステアバイワイヤ機構で自動制御された前輪操舵によって安定した旋回走行を実現することができた.

 

3(1)(2)の結果より,AIギアデバイスの中心的な機能である,ステアバイワイヤ機構による自転車の操舵が可能であることの検証と,従来の自転車ではできなかったコンピュータ制御による安定化走行への介在を可能にすることができることを実証した.これは,利用者が自転車を意図した形で操舵することを可能としながら,状況に応じてコンピュータがその操舵に介在できることを示しており,コンピュータが適切に操舵に介在することで,安全な走行や,自動走行を実現する可能性を示唆することができた.

図1,2:プロトタイプ自転車(左)および,操作支援による手放し走行実験

 

(2)AIギアデバイスに搭載する制御系やユーザーインタフェース系の研究開発

プロトタイプ実験によって,AIデバイスギアの中心的な機能の実現を確認したので,AIギアデバイスによって実現したい安全・安心な走行を実現する制御系やユーザーインタフェースの実現を図った.

(1) 安全・安心な走行を担保するために,2つの方向性で制御系を設計した.1つはハンドルの操舵アシストである.図3は操舵アシストのありなしで,利用者が加えた操舵トルクの違いを示している.操舵アシストが稼働すると,利用者は小さな操舵トルクでハンドルを操作できる.これは,ハンドルにとりつけた前かごに荷物や子供を載せた場合の操舵性改善に役立つ.

(2)  次に,AIギアデバイスに搭載された自転車の走行状況データをセンサで取得し,そのセンサデータに基づいてAIギアデバイスのステアバイワイヤ機構をコンピュータ制御することによって,「本来の自転車とは異なる乗り味(ダイナミクス)」を実現可能であることを実証した.たとえば,自転車前輪のオフセット量は,自転車前輪に発生するトレイル効果に影響を与える.通常の自転車では,オフセット量は自転車フレームによって決まる.よって,一度製作された自転車のオフセット量は変更できない.ところが,本AIギアデバイスを利用するとコンピュータ制御によって,異なるオフセット量の挙動を実現することができる.つまりトレイル効果を,状況に応じて可変にできることを確認した.このことは,走行状況に応じて,安定走行性能を調整できることを意味しており,図4に示すようにオフセット量を制御的に変化させたときに,同一のカーブを曲がるために傾斜させるべき車体ロール角が変化している様子が見て取れる.これらの結果は,安心・安全な自転車走行の制御的な実現に繋がる.

 

図3 AIギアデバイスによるアシスト制御と操舵トルク

図4 AIギアデバイスによるオフセットを制御的に変更した場合の車体ロール角変化

 

(3)AIギアデバイスの統合・評価実験

AIギアデバイスを搭載した実機を設計・実現した.図5はこのAIギアデバイスを搭載した実機である.

 

5 AIギアデバイス搭載自転車

 

AIギアデバイスを他自転車にも搭載できるように,ハンドルステムとハンドルチューブの結合方法として,アヘッドタイプとスレッドタイプが現存するなかで,スレッドはアヘッドタイプに変換するアダプターがあることから,アヘッドタイプのハンドルステムを対象として,AIギアデバイスを連結させる仕組みを採用した.

AIギアデバイスは,基本的な構想としてはステアバイワイヤ機構をその操舵システムの中心に備えているが,万が一アクチュエータであるモータがロックした場合において,操舵ができなくなり事故を起こすことを未然に防ぐために,モータからの動力がAIギアデバイスに伝達される間に,クラッチ機構を挟むことで,いざというときに,通常のハンドル操作が前輪軸操舵に直結され,モータからの動力から開放する仕組みを導入した.これによって,アクチュエータロックが起きても,利用者によるマニュアル操舵が可能となり,緊急対応が可能となる.

また,AIギアデバイスから検出されたセンサ信号は,仮想空間に取り込まれ,その仮想空間上に配置されている自転車仮想モデルとリンクすることで,その動きを分析することが可能となった.図6は仮想空間上の自転車モデルであり,この仮想空間上の自転車のオフセット量を変更したときの,挙動が図6に示されている.これらの情報を現実のAIギアデバイスにフィードバックすることでAIギアデバイスを介したサイバーフィジカルシステムを実現することが可能になった.

図6 仮想空間上でのオフセット量変更後の自転車挙動計算結果

 

 

■成果を公表している研究室ホームページ上のURL

    (https://www.ctrl.fr.dendai.ac.jp/JKA/)

 

4 本研究が実社会にどう活かされるか―展望

自転車の保有台数は国内で6870万台に及び,約二人に1台の割合で利用されている.世界でみると,アメリカ12千万台,中国で37千万台である.本事業は,自転車利用者に対する価値提供が期待できる.コロナ禍では,通勤・通学時の公共交通機関を利用を避け,自転車を利用するニーズも高まっていた.(財)自転車産業振興協会によると健康増進や環境保全を理由とする利用者が増え,利用目的が多様化している.自動車のトリップ長の約4割は5q未満の移動であり,これが自転車に転換されれば温室効果ガス削減にも効果がある.

本事業で開発されたAIギアデバイスが普及すると,利用者も周囲の人々も,安全で安心に自転車を利用でき,交通事故を防ぎながら,快適な移動による健康増進と,モビリティのクリーンなエネルギーへの転換が促進されることが予想される.自転車使用状況を把握することで,利用者の操舵能力を把握し,状況に応じたリスクが見積られる.リスクに応じ,自転車利用者の周囲感知能力と操舵能力をよく補助し,安全性と安心感が高まる.自転車利用履歴から利用者自ら運動量を評価することが可能となり,シェアバイクの移動履歴から地域での人流を把握し,駐輪場の最適化など都市計画に反映させるといった展開が期待できる.これらが総じてSDGsへの貢献の一翼に繋がると考えられる.

 

5 教歴・研究歴の流れにおける今回研究の位置づけ

 

事業者は,これまでに制御工学を専門として研究に従事し,その研究成果をロボット・メカトロニクス開発へと応用,展開している.これまでに,電動アシスト自転車のパワーステアリング,車いすナビゲーションシステム,人間の操作能力に応じたアシストシステム(Human Adaptive Mechatronics)などに取り組んできた.特に,長年取り組んでいる電動アシスト自転車に関する操舵アシストや安全性,安定走行に関する分野で研究成果を出している.これらの成果の一部は,消費者庁との幼児同乗用自転車の安全性に関する調査や,NHK「あさいち」でも取り上げられた.同様に,手放し走行を可能とする競技でNHK「凄ワザ」にも出演している.

 本事業は,これまでの電動アシスト自転車に関する研究開発のさらなる発展形に位置付けられる.クリーンエネルギー化,感染症対策,超高齢化での移動手段確保など,現在の社会背景において,新たな自転車ニーズが現れている.これらのニーズに対応するべく,自転車のIT化やサイバーフィジカルシステムが必須であり,本事業で開発したAIギアは,自転車の利用状況把握やサイバー空間との連携,操舵アシストまでを可能にする新しいハブデバイスである.これまでの研究をより発展させた取組であるとともに福祉機器展開,健康増進,シェアバイク促進のキーデバイスとなりうるものである.

 

6 本研究にかかわる知財・発表論文等

 

■国内学会発表

黄原 敬淳, 鈴木 崚, 椎野 一樹, 瀧本 聡志, 佐藤 康之, 岩瀬 将美, 電動ステアバイワイヤ機構を利用した自転車の操舵アシスト制御, 自動制御連合講演会講演論文集, 2022, 65 , 65回自動制御連合講演会, セッションID 1A1-5, p. 24-25

 

■国際学会発表

Soshi Takimoto, Masami Iwase, Kazuki Shiino and Takaatsu Kihara "Trail Control of Bicycle for Improving Stability Maneuverability," Proc. of 2023 International Conference on Mechatronics, Control and Robotics (ICMCR2023), ONLINE(South Korea), CMR008 (2023.2)

 

7 補助事業に係る成果物

(1)補助事業により作成したもの

AIギアデバイス搭載自転車(図5 

(https://www.ctrl.fr.dendai.ac.jp/JKA/)

 

(2)(1)以外で当事業において作成したもの

仮想空間内の電動自転車モデルおよびシミュレータ(図6) 

(https://www.ctrl.fr.dendai.ac.jp/JKA/)

 

8 事業内容についての問い合わせ先

所属機関名: 東京電機大学(トウキョウデンキダイガク)

住   所: 〒120-8551(半角)

東京都足立区千住旭町5

担 当 者: 教授 岩瀬 将美(イワセ マサミ)

担当部署: 未来科学部 ロボット・メカトロニクス学科(ミライカガクブ ロボット・メカトロニクスガッカ)

E-mail: iwase@mail.dendai.ac.jp

URL: https://www.ctrl.fr.dendai.ac.jp/